賢治と花巻市民
幼いころ、現在のようにプールが無かったので、イギリス海岸は、水遊びの場所であり宮沢賢治碑･羅須地人協会は、幼稚園の遠足で訪れ、現在の賢治記念館のある胡四王山や高村光太郎山荘は、小学校の小旅行の場所でもあった。賢治の母校の花巻小学校には、多くの賢治の書籍があり“セロ弾きのゴーシュ”の絵や、“よだかの星”“やまなし” “銀河鉄道の夜”などの絵がホールに掲げられていた。花巻市民は私だけではなく宮沢賢治や高村光太郎について、郷土の偉人として誰もが知っている。しかし、賢治や光太郎について本当によく知っているかと言えば、そうでもない。幼い時から何度も聞かされていたので、知っているような気がしているだけである。花巻は、 “ポラーノの広場”“ぎんどろ公園”“ダースコ”など何かにつけ賢治作品から引用したネーミングが多い。しかし、賢治との関わりからすると首を傾げたくなるようなものも多い。
イーハトーブのメルヘン商店街
（株）久慈一戸建築事務所を退職後1989(平成元年)10月9〜19日、ドイツのメルヘン街道をグリム兄弟生誕の街ハーナウからカッセル、バートピュルモント、ハーメルン、そしてブレーメンまで訪ね、グリム兄弟の童話と、その背景を大切にした街づくりに感動をし、ブレーメン市長代理の観光局の局長を表敬訪問し、今後の童話に拠る街づくりに付いての指導を受けるための交流の約束をお願いした。1990(平成2年)、子供たちの為の“スーパーキッツトライアスロンを開催し、参加した全国の有志から募金をし、翌年1991(平成3年)、花巻市中心市街地の歩道盤に、セロ弾きのゴーシュの絵タイルを取り付けた。このようなことから、1995(平成7)年、賢治の生家近くの花巻市中心市街地、上町商店街のアーケード解体と共に、街路灯･信号機・歩道盤の整備が始まった。私は、賢治の母校、花巻小学校の3年生の子供達78人と街路灯のデザイン・歩道盤の絵タイルのデザインを試みた。花巻は、“賢治ゆかりの地”であるが、城下町としても古い歴史がある。花巻城は、南部藩の本拠地の盛岡城より広い。北上川にせり出すように、奥羽山脈の支流、豊沢川からの扇状地の上に築城されている。城下と本丸･二の丸との高低差は、約8ｍである。従って、本丸と二の丸、二の丸と三之丸とそれぞれに堀がある。この堀の水の供給のため大堰川を引き込んでいた。この大堰川は、その周辺の二の丸、三之丸に住まいする当時の花巻城士の生活を支える水路であり、水車小屋も二箇所あったと言われている。この大堰川は、花巻市中心市街地、上町商店街へ流れ込んでいる。そこで、この大堰川の河川敷きに賢治童話のイメージの、ポケットパークやモニュメントが取り付けられている。そのひとつとして、“水晶の水車”を設計した。これは、童話“銀河鉄道の夜”のプリオシン海岸でジョバンニとカンパネルラが水晶の砂場で遊ぶ場面があり、それと藩政時代の花巻のイメージを重ね合わせて創作したものである。
宮沢賢治童話村
1996(平成8)年、宮沢賢治生誕100年祭が挙行された。花巻市を挙げてのイベントであり、多くの皆様が、7〜9月の期間中花巻を訪れた。これに先立ち、宮澤記念館の増築、注文の多い料理店の模様替え、注文の多い料理店の2号店と、かなりの施設の見直しがおこなわれ、私共もそれらの仕事に関わることが出来た。特に、今回の施設の中心となる宮沢賢治童話村の設計監理を�螳按命�社の構想のもとで担当する機会に恵まれた。施設はのちに建設される花巻市博物館と繋がるように配置した。敷地の中心に大きな駐車場を設け“銀河ステーション”から続く大きな芝生広場を設けた。外観の特色は木造の校舎のシルエットを現す、鉄骨の山形のフレームを入り口に向けて相似形に小さくし、“賢治の心象世界”に至るメージを高めた。内部は｢ファンタジックホール｣、｢宇宙｣、｢天空｣、｢大地｣、｢水｣など５つのゾーンや賢治童話ミニチュア人形の展示コーナーなどからなり、大人でも等身大で童話の世界を楽しめるようになっている。
文部科学省から“イーハトーブの風景地”として、06,7.28名勝地の認定を受けた“イギリス海岸”。
宮沢賢治が寓話『黒ぶだう』のモデルとして描いた1925(大正14)年建立の『菊池捍邸』。
メルヘン商店街(上町商店街)の街路灯。宮沢賢治の“月夜の電信柱”をイメージした。
花巻の中心市街地『上町商店街』の歩道盤。賢治の母校、花巻小学校の３年生の子供達と32基をデザインした。
プレオシン海岸の“水晶の砂場”から“水晶の水車”をイメージして市内の大堰川の河川敷に設けた。
賢治の童話のメイン施設。
山形の鉄骨のシルエットは木造校舎のイメージ。